大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所小田原支部 昭和52年(ワ)391号 判決

原告

後藤スノブ

ほか四名

被告

小松組運輸株式会社

ほか二名

主文

原告等の請求を何れも棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は、

一  被告らは各自原告後藤スノブに対し金一、三六〇万三、八七六円、原告後藤清一に対し金八八四万九、二五一円、原告坂本陽子に対し金八八四万九、二五〇円、原告後藤冨士則に対し金八八四万九、二五〇円及びこれらに対する昭和五二年一二月一一日より完済に至る迄年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは各自原告菅原洋子に対し金六三九万九、八〇三円及び之に対する昭和五二年一二月一一日より完済に至る迄年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一  事故の発生

(一)  訴外亡後藤陽之助、訴外亡川村定則の両名は、次の交通事故によつて死亡した。

(二)  発生時。昭和五一年一二月二三日午後六時三七分頃。

(三)  発生地。神奈川県秦野市鶴巻一九四番地先。

(四)  発生場所の状況。歩車道の区分が無く、制限速度時速一〇〇粁の高速道路。

(五)  事故区分。停車中の加害車両に衝突。

(六)  加害車両。大阪一一い一三二一、大型貨物自動車、運転者被告末次正文。

(七)  被害車両。相模四四ほ九七六五、普通貨物自動車、運転者原告後藤清一、被害同乗者訴外亡後藤陽之助、同川村定則。

(八)  被害者。訴外亡後藤陽之助(男、五二歳、鳶職)が脳挫傷、頭蓋骨々折にて昭和五一年一二月二三日午後六時三七分頃死亡。また、訴外亡川村定則(男、四六歳、鳶職)が脳挫傷、後頭骨々折にて同日同時刻頃死亡。

(九)  被害者の権利の承継。原告後藤スノブは被害者訴外亡後藤陽之助の妻、原告後藤清一、同坂本陽子、同後藤富士則は同訴外人の子、原告菅原洋子は被害者訴外亡川村定則の子で、原告らは法定相続分により被害者の権利を承継した。

(一〇)  事故の具体的内容。被告末次は、公安委員会の運転免許を受けないで前記大型貨物自動車を運転し、前記場所にさしかかつた時、予備タンクより本タンクに燃料を移す方法を知らなかつたため燃料を切らし、法定の駐車禁止場所である路側帯に停車して燃料を調査中、原告後藤清一の運転する普通貨物自動車の左前部が被告車の右後部に衝突した。

二  責任原因

被告らは、各自次の理由により原告らに生じた損害を賠償する責任がある。

(一)  被告小松組運輸株式会社(以下、単に被告会社という)は、加害車両を業務用に使用し、自己のため運行の用に供していたものであるから、自賠法第三条による責任。

(二)  被告小松雅夫は、被告末次を使用し、被告会社の業務を執行中、後段記載のような過失によつて本件事故を発生させたのであるから、民法第七一五条第一項による責任。

(三)  被告末次は、後段記載のような過失によつて本件事故を発生させたのであるから民法第七〇九条による責任。

而して、被告側には次のような過失がある。即ち、被告末次は、無免許で、整備不良車を運転し、駐(停)車禁止に違反したものである。

三  損害

損害の種類及び金額は、別紙損害明細書記載の通りである。次に、訴外亡後藤陽之助の逸失利益はライプニツツ係数により計算し、訴外亡川村定則の逸失利益は、出労日数に基く給料計算により年齢平均給与額を下まわつているので、新ホフマン係数により計算したものである。また、原告菅原洋子は、自賠責保険金一、五〇〇万円の支払を受けている。

四  特記事項

訴外亡後藤暢之助は、一家の支柱として原告後藤スノブ、同坂本陽子、同後藤富士則らを養育していた。尚、原告後藤スノブ、同後藤清一、同坂本陽子、同後藤富士則らは、自賠責保険金の支払を受けていない。同乗者に対し、「他人」と認定されなかつたのがその理由である。

また、訴外亡川村定則は、単身者であり、その逸失利益は、自賠責保険では金二二五万円と計算された。同訴外人の昭和五一年度に於ける収入が年齢平均給与額を下まわつたためと思われる。

五  結語

よつて、原告らは被告らに対し、別紙損害明細書第六請求欄記載の金員、及び之に対する本訴状送達の翌日である昭和五二年一二月一一日より完済に至るまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴に及ぶ。

と陳述し、立証として、甲第一乃至第一五号証、同第一六号証の一乃至三、同第一七号証、同第一八号証の一、二、同第一九号証を提出し、原告本人後藤スノブ、同菅原洋子の各尋問の結果を援用すると述べた。

被告小松組運輸株式会社及び被告小松雅夫の両名は何れも、本件最初の口頭弁論期日に出頭しないので、その提出に係る答弁書を陳述したものと看做すと、該答弁書には、原告らの請求を棄却する、訴訟費用は原告らの負担とするとの判決を求め、答弁及び抗弁として、

一  請求の原因第一項は、(五)、(九)、(一〇)を除いてその余を認める。同第二乃至第四項は何れも不下知。同第五項を争う。

二  原告ら主張の交通事故は、原告後藤清一が、走行車線を守り、安全運転をしておれば、緊急路側帯に停車中(緊急電話で連格中)の被告末次正文運転の車両に追突することなく、無事に通過することが出来て発生しなかつたものである。従つて、原告ら主張の事故は、原告後藤清一の過失により発生したもので、被告らこそ被害者である。よつて、本訴請求に応ずべき義務がない。

と主張する旨の記載がある。

被告末次正文は、本件最初の口頭弁論期日に出頭しないので、その提出に係る答弁書を陳述したものと看做すと、該答弁書には、原告らの請求を棄却する、訴訟費用は原告らの負担とするとの判決を求め、答弁として、

一  原告ら主張の交通事故は、原告後藤清一の安全運転義務違反に起因するものである。被告末次正文が停車していた場所は緊急路肩と称し、緊急時の停車帯であり、然も、同被告が停車していた時の状熊は次の通りである。

(一)  走行車線よりかなりの間隔をとり、キヤビンを上げ、緊急点滅灯をつけ、更に運転席の屋根にある黄色の回転灯をつけ、停車については万全の措置を執つていた。

(二)  現場の道路状況は、直線且つ平坦で、特に見通しの良い場所である。

(三)  同被告が停車中、十数台の車両が通過したが、そのうち原告後藤清一運転の車両だけが追突したのは、同車両が車線よりはみ出していたことが明らかであり、然も、同原告は全く制動措置を講じていないから、原告ら主張の交通事故は専ら原告後藤清一の過失に因るものである。

(四)  同原告は、急に左に寄り、走行車線を大きくはみ出して追突したもので、ハンドル操作の誤りである。

(五)  同被告の停車時間は、僅か五分乃至七分である。

二  以上の如く、原告ら主張の交通事故は、同被告の駐車または無免許運転とは全く無関係である。原告らの本訴請求は失当である。

と主張する旨の記載がある。

理由

一  請求の原因第一項の(一)乃至(四)、(六)乃至(八)は、原告らと被告会社及び被告小松雅夫との間に於て争いがなく、被告末次正文は右の事実を明らかに争わないので之を自白したものと看做す。

二  よつて先ず、事故発生の状況について検討するに、何れも公文書であることにより真正に成立したものと推定される甲第一号証、同第六乃至第一五号証を綜合すると、次の各事実を認定することが出来る。

(一)  事故現場は、高速自動車国道東海自動車道東京小牧線、通称東名高速道路の路上であつて、厚木インターチエンジと大井松田インターチエンジの中間に位し、厚木インターチエンジの西方約九・九粁の地点である。現場付近は厚木インターチエンジ方面(東方)より大井松田インターチエンジ方面(西方)に向け、片側が、南側より順次路側帯三・〇米、走行車線三・六米、追越車線三・六米、側帯〇・七米となつており、且つ、略々直線状で、前方約四〇〇米を見通すことが出来る個所である。

(二)  被告末次は、大型貨物自動車運転の免許証を取得していないのに拘らず、単独で大型貨物自動車大阪一一い一三二一号(以下、被告車という)を運転し、前記高速道路を厚木インターチエンジ方面より大井松田インターチエンジ方面に向けて進行中、燃料系統の故障によりエンジンの不調を来たしたので、事故現場の左側路側帯に停車して故障個所の調査を始めた。その際、同被告は、被告車を完全に路側帯内に乗り入れた上、非常点滅灯を点灯すると共に、被告車運転席の右側屋上に黄色の回転灯を点灯させ、後続車両に警告を与える措置を執つた。

(三)  被告車が前示路側帯に停車した約一五分後、原告後藤清一は、普通貨物自動車相模四四ほ九七六五号(以下、原告車という)に訴外亡後藤陽之助、同川村定則、同笠倉勝一の三名を同乗させ、前記高速道路の走行車線を時速約八五粁で被告車と同方向を進行し、事故現場に差しかかつた際、同乗者の中にいびきをかいて居眠りを始めた者がいることに気を取られ、ハンドルを握つたまま左後方を振り向いて同乗者の顔を確かめている内、原告車が次第に左側の路側帯に進入しているのに気が付かず、再び前方に目を移した瞬間、約一二、三米前方の路側帯に駐車中の被告車を発見し、突嗟にハンドルを右に切つて被告車を回避しようとしたが及ばず、被告車の後部右側に原告車の左前部を激突させ、本件交通事故を発生させるに至つた。

以上の各事実を夫々認定することが出来る。他に右認定を左右するに足りる証拠は存在しない。

三  そこで検討するに、被告末次が被告車を事故現場の路側帯に駐車させたのは、被告車の燃料系統の故障に因るものであり、然も同被告は、被告車を完全に路側帯に乗り入れた許りか、非常点滅灯と回転灯とを点灯させていたのであるから、同被告が被告車を駐車させた行為に違法性を認めることが出来ない。却つて、原告車と被告車とが衝突した本件交通事故は、専ら原告後藤清一が前方注視義務を怠つた過失に起因するものと認められる。而して、原告等は、被告末次が無免許であつたこと、被告車に整備不良の欠陥があつたこと、被告小松組運輸株式会社と被告小松らに、運転者に対する監督不行届の点があつたこと等が本件事故の原因である旨主張するが、本件事故は、右認定の通り、路側帯に駐車中の被告車に、後方より走行してきた原告車が衝突して発生した事故なのであるから、之等の点は本件事故の発生と何等因果関係がないものと考えるのが相当である。従つて、本件事故は原告後藤清一の一方的な過失に因り発生したものと断ずる外はなく、被告らは本件事故に対して責任がないと言わねばならない。

四  果して然らば、原告らの主張は余の争点に対する判断をまつまでもなくすべて理由がないから、本訴請求は全部失当として棄却を免れないものである。よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条を各適用した上、主文の通り判決する。

(裁判官 石垣光雄)

損害明細書

第1 積極損害

1 葬祭費金30万円、負担者原告後藤スノブ

2 葬祭費金30万円、負担者原告菅原洋子

第2 消極損害

1 訴外亡後藤陽之助の逸失利益

事故時年齢52歳、推定余命22.21年、収入年間360万9,089円、控除すべき生活費3,070円、純利益年252万6,362円、労働能力喪失率100%、その存すべき期間15年

算式 252万6,362円×10.3796-2,622万2,627円

2 相続分

原告後藤スノブが金874万0,876円

原告後藤清一が金582万7,251円

原告坂本陽子が金582万7,250円

原告後藤富士則が金582万7,250円

3 訴外亡川村定則の逸失利益

事故時年齢46歳、推定余命27.34年、収入年間191万7,185円、控除すべき生活費5,070円、純利益年95万8,592円、労働能力喪失率100%、その存すべき期間21年

算式 95万8,592円×14.1038-1,351万9,803円

4 相続分

原告菅原洋子が金1,351万9,803円

第3 慰謝料

1 原告後藤スノブが金333万3,000円

2 原告後藤清一が金222万2,000円

3 原告坂本陽子が金222万2,000円

4 原告後藤富士則が金222万2,000円

5 原告菅原洋子が金700万円

第4 損害のてん補

原告菅原洋子についてのみ自賠責保険金1,500万円

第5 弁護士費用

原告らが認容額に応じ1万円以下を切捨てた金額の1割を負担

第6 請求額(積極損害、消極損害、慰藉料、弁護士費用の合計から損害のてん補金を差引いたもの)

1 原告後藤スノブ、金1,360万3,876円

2 原告後藤清一、金884万9,251円

3 原告坂本陽子、金884万9,250円

4 原告後藤富士則、金884万9,250円

5 原告菅原洋子、金639万9,803円

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例